「3つのバブル」から

クーリエ・ジャポン経済学者ロバート・シラー「3つのバブルが同時発生していることが心配です」(2021年4月5日)を読む。イェール大学のロバート・シラー教授へのインタビュー記事である。おそらく邦訳が出版される『物語経済学』(Narrative Economics: How Stories Go Viral & Drive Major Economic Events)のプロモーションを兼ねているのだろう。

「物語が世界を方向づけるのであって、その逆ではない。そして物語は“感染”しやすい」というリードで記事は始まる。

質問者は「ソーシャルネットワーク上のエコーチェンバー現象(註: 閉鎖的な空間で繰り返されるコミュニケーションによって、特定の信念が増幅・強化されてしまうことの例え)は政治を変えました。同じことが市場でも起きると思われますか。」と問う。
教授は「インターネットはすでにあるものを強調しているにすぎません。すべては400年前の「新聞の発明」とともにはじまりました。このときを境に、かなり常軌を逸した考えが広まるようになりました。」と答えている。

注目すべきは、教授が「長期債券、株式、住宅の3分野でバブルが発生している」と指摘していることである。3分野には市場に対する過大評価がある。

「経済学は、景気後退やバブルを予測するより、多大な悪影響をもたらす株価の乱高下を抑制する方法を見つけ出すべきでしょう。経済を正確に予測するのは不可能です。」

つまり「経済システムは予測に反応する」。

景気循環や疫学モデルでは把握できない市場の動きは周期の概念で捉えきれない。背景にグローバルな情報化・デジタル化があり、物語が経済が動かすようになっている。物語は疫病より変異しやすいという指摘もしている。

教授は著書のなかで「フェイクニュースは、真実を伝えるニュースより6倍感染しやすい」と警告しているが、エイブラハム・リンカーンの名言「すべての人を常にだますことはできない」を引いて、人々はフェイクニュースに完全にだまされるわけではないと述べている。

 

経済学の主要課題について「多大な悪影響をもたらす株価の乱高下を抑制する方法を見つけ出すべき」と述べている。「経済システムは予測に反応する」という状態が当然となってしまった市場の動きは、周期の概念で捉えきれないだろうという推測もしている。だが、これに解決策があるのか?・・その先は、教授の著書を読めということであろうか。記事では、3つのバブル=市場に対する過大評価について、具体的な提言があるわけではないような話しになっていたが、ほんとうに何もないのか。意外な点は、新聞(マスメディア)の発明と波及が情報経済の起点とされていて、必ずしもインターネットの社会が特異なものではないとしている点である。他方でネットワークでつながった情報爆発があらゆる面で経済(市場)に大きな影響を与えていることも認めている。